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神戸地方裁判所 昭和59年(ワ)683号 判決 1985年10月30日

原告(反訴被告、以下単に原告という)

松本喜美子

右訴訟代理人

谷池洋

木内道祥

被告(反訴原告、以下単に被告という)

小倉光雄

右訴訟代理人

明石博隆

主文

一  原告が被告に対し、賃貸している別紙物件目録記載の土地の賃料は、昭和五九年五月一日以降一か月金五万五〇〇〇円であることを確認する。

二  原告のその余の本訴請求を棄却する。

三  被告の反訴請求を棄却する。

四  訴訟費用は、本訴、反訴を通じ三分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  本訴請求の趣旨

(一) 原告が被告に対し賃貸している別紙目録記載の土地の賃料は、昭和五九年五月一日以降一か月金七万四九四〇円であることを確認する。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

2  反訴請求の趣旨に対する答弁

(一) 被告の反訴請求を棄却する。

(二) 反訴費用は被告の負担とする。

二  被告

1  本訴請求の趣旨に対する答弁

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  反訴請求の趣旨

(一) 被告が原告から賃借している別紙物件目録記載の土地の賃料は、昭和五九年三月一日以降一か月金三万〇九二四円であることを確認する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  本訴請求の原因

1  原告は被告に対し別紙物件目録記載の土地を賃貸している。

2  右土地の賃料は、昭和五六年七月以降一か月金四万六八一四円である。

3  右賃料はそもそも極めて低額であることに加え、右賃料決定後の公租・公課の増加、諸物価の高騰等経済事情の変動により、著しく低廉となつた。

よつて原告は被告に対し、昭和五九年四月二五日被告に到達した書面により、昭和五九年五月一日以降一か月の賃料を金七万四九四〇円に増額する旨の意思表示をなした。

本件土地内建物配置図

4  ところが被告は右増額した賃料を支払わないので、本訴訟に及んだ。

二  本訴請求原因に対する認否

1  請求原因第1項は認める。

2  同第2項は否認する。賃料は、昭和五六年度より一か月金四万七二一四円である。このような誤解が生じたのは以下の事情による。原告は、昭和三五年ごろ芦屋市に転居してから一年経過後賃料は送金せざるをえなくなり、原告と被告の話し合いによつて、送料すなわち振込手数料は原告負担とすることにした。それ以降、被告は、賃料額の中から振込手数料を差し引いた残額を原告に送金し続けている。振込手数料の変動によつて、原告の手許に送付される金額も四万七一一四円から四万六八一四円に変動しているが、賃料額自体は昭和五六年度より四万七二一四円と不変である。

3  同第3項は不知。但し、原告主張の日時に原告主張の内容の賃料増額請求の意思表示がなされたことは認める。

三  反訴請求の原因

1  被告は、原告から本件土地を賃借し、同土地上に建物(以下本件建物という)を所有している。

2  被告と原告は、本件土地の賃料を、昭和五五年一〇月以降一か月金四万七二一四円と約定し、現在に至つている。

3  しかし、本件土地の賃料については、以下に述べる如く、地代家賃統制令の適用がある。

(1) 本件土地を敷地とする本件建物は、昭和二五年七月一〇日以前に築造に着手された家屋である。

(2) 右建物は、当初より住居専用として使用されている。

(3) 右建物の延べ床面積は、九九平方メートル以下である。

4  従つて、現在の約定賃料額一か月金四万七二一四円は、地代家賃統制令第三条により統制額を超える部分について無効である。

5  地代家賃統制令に基づく建設省告示第一八四四号により、本件土地の地代統制額を計算すれば、昭和五九年三月一日以降一か月金三万〇九二四円である。

6  よつて、被告は、本件土地の賃料額が昭和五九年三月一日以降一か月金三万〇九二四円であることの確認を求める。

四  反訴請求の原因に対する認否

1  反訴請求原因第1項中原告が本件土地を所有し、被告が本件土地上に建物を所有していることは認める。

但し、被告が本件土地上に所有する建物は一棟ではない。

2  同第2項は認める。

3  同第3項は不知。本件土地の賃料につき地代家賃統制令の適用があるとの主張は争う。

4  同第4、5項は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一本件請求原因第1項の事実は当事者間に争いがない。

二<証拠>を総合すれば、本件土地の賃料は昭和五六年七月以降一か月四万七二一四円であつたこと、右賃料は、その後の経済事情により昭和五九年四月当時不相当に低くなつたことが認められる。

三原告が昭和五九年四月二五日被告到達の書面で本件土地の賃料を昭和五九年五月一日以降一か月七万四九四〇円に増額する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

四そこで、昭和五九年五月一日以降における本件土地の適正賃料について判断する。

1  <証拠>を総合すれば、(一) 本件土地上には、別紙本件土地建物配置図記載のとおり、被告所有の建物①、②、③の三棟が建つており、いずれも未登記であつて、それぞれの建物の面積は、①の建物が七七・一〇平方メートル、②の建物が一六・七二平方メートル、③の建物が一九・八二平方メートルであること、(二) そして、①の建物は、昭和二四年夏ごろ建築にかかるものであること、すなわち、被告の父小倉啓次郎は昭和二〇年ごろ原告の父松本寅之介から本件従前地を賃借して同地上に建物を所有していたが、その後土地区画整理に基づき本件仮換地上に移転しなければならないことになつたので、右啓次郎は昭和二四年夏ごろ本件仮換地上に①の建物を建築してそのころから被告ら家族と共に移り住み、本件従前地にあつた旧建物は昭和二五年二月一三日ごろ撤去したこと、(三) 前記②、③の建物は昭和二五年七月一〇日以後に建築したものであることが認められ、成立に争いのない甲第四号証は右認定の妨げとならず、ほかにこれを動かすに足る証拠はない。

右認定事実によれば、本件土地上には、地代家賃統制令の対象となる建物①と非統制の建物②、③とが併存することになるが、このような場合、地代家賃統制額を定める告示に沿つた地代を決める計算方法としては、統制建物と非統制建物の延べ床面積で敷地を比例按分して、それぞれの地代を算出合計したものとするのが合理的である。

2  本件の場合、鑑定人村田正の鑑定結果は、すべて非統制建物であることを前提としているので、前記1により地代を試算するためには、次のとおりの方法をとることとなる。

(一)  <証拠>によれば、昭和四八年度の本件土地の固定資産税標準額は四三一万九八〇九円、昭和五九年度の本件土地の固定資産税額は七万八九七〇円、同年度の本件土地の都市計画税額は五万八八六〇円であることが認められ、それに基づき、本件土地にすべて統制対象の建物があるとした場合の統制額は一か月三万〇九二四円となる。

(二)  鑑定人村田正の鑑定結果によれば、本件土地につき、統制令の適用がない場合の地代は月額七万二一〇五円が相当であることが認められ、前認定のとおり、①の建物の床面積は七七・一〇平方メートル、②、③の建物の合計床面積は三六・五四平方メートルであり、本件土地の面積は二三六・四三平方メートルであるから、前記1に従い、昭和五九年五月一日以降の本件土地賃料を試算すれば月額四万四一三六円となる。

20980.6円+23155.8円=44136円

3 しかしながら、地代家賃統制令の適用のある借地又は借家につき裁判、裁判上の和解又は調停によつて地代又は家賃の額を定める場合には、停止統制令又は認定統制額を超えてでも適正な額を定めることができるものである(最高裁判所昭和五一年六月三日第一小法廷判決、民集三〇巻六号五七一頁)。本件の場合、①、②、③の建物はそれぞれ独立しているものの、合計床面積は一一三・六四平方メートルであつて、地代家賃統制令二三条二項三号が適用除外を定めている一つの建物の延べ床面積九九平方メートルをかなり超えた面積であること、一個の借地契約において、環境、地形、用途が同一であるのにかかわらず、賃料算定部分に多寡が生ずるのは不自然であることなどを考えれば、地代家賃の統制額を定める告示に沿い試算した前記賃料月額四万四一三六円をもつて本件土地の適正賃料とすることは必ずしも妥当ではなく、ただ、統制額をも考慮し、本件土地の賃料は昭和五九年五月一日以降月額五万五〇〇〇円をもつて相当と認める。

五前認定のとおり、本件土地の賃料が昭和五九年五月一日以降一か月五万五〇〇〇円をもつて相当とする以上、右賃料が同年三月一日以降三万〇九二四円(従前の月額賃料四万七二一四円を下回る金額)であるとする被告の主張はこれを認めることはできない。

六そうすると、原告の本訴請求は、本件土地の賃料を昭和五九年五月一日以降月額五万五〇〇〇円と確認する限度で正当であるから、これを認定し、右限度をこえる部分は失当として棄却する。

また、被告の反訴請求は理由がないから、これを棄却することとする。

よつて、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官広岡 保)

物件目録

神戸市灘区稗田工区六三街区一九―五号地

宅地 二三六・四一平方メートル

(右土地の仮換地前の従前地)

神戸市灘区城内通三丁目七五三番一二

宅地 三二三・五四平方メートル

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